引き続き「カンダ・ウンパット」の続きです。
人間と常に一緒にいる4人の兄弟/姉妹については何となく私も理解できたのですが
4人の兄弟の神様バージョン(カンダ・ウンパット・デワではない)については
頭を抱えてしまう・・・・。
バロン・コーナーの注釈のカンダ・ウンパットは
人間レベルのカンダ・ウンパットではなく、
どちらかといえば人間のレベルを超えたカンダ・ウンパットの話なので
「??????」だらけです。
単独の物語としてならばわかるのですが。
しかしよーくよーく考えてみたら、人間にだって4人の兄弟がいるのだから
ランダに4人の姉妹がいても変じゃないです。
いや、・・・・そういう話じゃないか。
それにあの注釈では兄弟/姉妹という感じじゃなかった。
そこでカンダ・ウンパットに関連する物語がないか調べてみました。
たとえばバリでチーフ・メディカル・オフィサーを務めた
Wolfgang Weckというオランダ人が1937年に書いた本によると
(オランダ語もドイツ語も読めないので
正しくはEiseman Jr著の『Sekala&Niskala』からの孫引きになります)
カンダ・ウンパットはサン・ヒャン・ウィディSang Hyang Widiという神様によって
作られたことになります。
シンガラジャSingaraja地方で伝統医学や呪術の研究もしていた
Weckが紹介する物語は以下のようなものです。
サン・ヒャン・ウィディは
1.サン・ヒャン・カルティカSang Hyang Kartika
2.サン・ヒャン・ガルガSang Hyang Garga
3.サン・ヒャン・ムトゥリSang Hyang Metri
4.サン・ヒャン・クルシアSang Hyang Kurusia の4神をつくり
4神それぞれに使命を授けました。しかし4神は使命を拒否。
そこでサン・ヒャン・ウィディは怒り、4神の姿を変えて東西南北へ追いやりました。
1のサン・ヒャン・カルティカはラクササRaksasaという魔物の姿に変えられ東へ。
サン・ヒャン・カルティカはのちに
サン・カラ・バナスパティ・ラジャSang Kala Banaspati Rajaと呼ばれることに。
2のサン・ヒャン・ガルガは虎に変えられ、南へ。
サン・ヒャン・ガルガはのちに
サン・ヒャン・カラ・ヤマパティSang Hyang Kala Yamapatiもしくは
アンガパティAnggapatiと呼ばれることに。
3のサン・ヒャン・ムトゥリはヘビに変えられ、西へ。
そしてサン・ヒャン・カラ・アンガスパティSang Hyang Kala Angaspatiと
呼ばれることに。
(アンガスパティではなくバナスパティじゃないかと思うんですが?)
4のサン・ヒャン・クルシアはワニに変えられ、北へ。
サン・ヒャン・クルシアはのちに
サン・ヒャン・ムラジャパティSang Hyang Merajapati)と呼ばれます。
その後、いろいろあってサンヒャン・ウィディは4神へ
マヌシア・サクティManusia Saktiの希望を受け入れるよう命じます。
マヌシア・サクティは
シワ神と妻のウマによって作られた世界に初めて住む人間たち(神様軍団からすれば、その人たちの見かけはかなり変わっていたそうです)のことで
サン・ヒャン・ウィディはマヌシア・サクティたちを祝福して
「あなたたち最初の人間たちは悪いことも良いこともしてよい、幸福なことも不幸なことも。それから邪悪な者になってもよい。欲張り者、怒り者、利己主義者になってもよいし、もちろんレヤック/Leyak(妖術を使う人)になってもよい。あらゆる種類の毒を使ってもよい。それから良い行いをすることもできる。賢明な行動や思考、学習、愛など。良い行いは、この世界に満足と幸福をもたらすだろう。善悪双方のすべてのパワーを私からあなたたちへ授けた」
と言いました。
そこで4神はサン・ヒャン・ウィディが命じたとおり
マヌシア・サクティの希望を聞いてみると
マヌシア・サクティは
「4神がこの世界にやってきて人々を組織すれば、神々も魔物も人々も仲良く暮らしていくことができる。すべてが繁栄する。すべての敵が悪いことを行うのも容赦できる。そして世界から悪を一掃できるにちがいない」と答えました。
4神は
「あなたたちの言うことは素晴らしい。しかし本当はそう思ってないのに、そう言ってるだけじゃないか?あなたたちが口にしたことを行動するときは、昼も夜もそばについているし、遂行できるようにとりはからうよ。我々4神は、あなたたちの性別を問わず、あなたたちの家族であることを知っておいて。我々のうち2神はあなたたちの心の中にいる。そして残り2神は外だけども、あなたたちの呪術的パワーの中にいる。けれども、もしもあなたたちが自分のした約束を忘れたなら、その時、我々はあなたたちへトラブルを引き起こす。そのことは必ず覚えておくように」とマヌシア・サクティへ言いました。
そして4神は消え、人間の体内へ入っていきました。
Weckが紹介している話は、
人間と神様およびカンダ・ウンパットとの関係が作られた当初のことのようです。
4神の「のちに・・・・と呼ばれることになった」という部分の
それぞれの名前は
前回に触れたカンダ・ウンパットのそれぞれの名前と同じです。
翻って、
シュピース&デ・ゾェトが注釈で「聞いた話だけど・・・」と書いている話は
ランダがカンダ・ウンパットを作ったことになっています。
それも「呪術を勉強している人たちに負けたくないから」という理由でしたし。
む〜〜〜
ランダが作ったのか、
それともサン・ヒャン・ウィディをはじめとする神様たちが作ったのか、
カンダ・ウンパットを作ったのは誰か謎が深まるばかりです。
私がバリの人から聞いた話では
カンダ・ウンパットがブラフマ神やイスワラ神へ変容する物語もありました。
誰が作ったのかはさておいても
「じゃあカンダ・ウンパットって何?」と聞かれても、よくわからないです。
すごくアバウトですが神様系やランダ系の場合は
エネルギーとかパワーとかそういうものじゃないかとも思います。
でも本当に、よくわかりません。
ただし人間と一生を共にするカンダ・ウンパットについては
4人の兄弟/姉妹ということで理解しています。
一口に
「カンダ・ウンパットとは○○です」と言い切れないところが
ややこしいというか、非常にバリ的だなと思います。
いろんなカンダ・ウンパットの物語を知ると
もっとイメージが摑みやすくなるのかな?
でも、もっと混乱しそうな気もします。
参考文献
・Wolfgang Weck 『Heilkunde und Volkstum auf Bali』
1986, PT Bap Bali, PT intermasa, Jakarta
(1937年に出版された本のドイツ語訳。持っているけど読めません)
・Fred B Eiseman Jr 『Bali Sekala & Niskala』vol.2 1986